東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2529号 決定 1992年10月05日
申立人 株式会社 乙山銀行
代表者代表取締役 甲野太郎
申立人代理人弁護士 須藤英章
同 岸和正
相手方 丁原建設株式会社
代表者代表取締役 丙川春夫
<ほか三名>
別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に対する当庁平成四年(ケ)第二二一五号土地競売事件につき、売却のための保全処分の申立があったので、担保を立てさせないで、次のとおり決定する。
主文
買受人が代金を納付するまでの間、執行官は、本件土地につき、次の事項を公示しなければならない。
一 相手方らが、本件土地内に搬入した土砂の撤去を命じられていること
二 相手方乙田ホーム株式会社が、本件土地上に建築した別紙建物目録記載の建物の収去を命じられていること
理由
一 資料によって一応認められる事実
相手方らは執行妨害を目的として、本件土地内に土砂を搬入し、別紙建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築した。
当裁判所はこのような認定し、申立人からの売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)の申立を認めて、相手方らに対し、本件土地内に搬入した土砂の撤去、本件建物の収去及び本件土地からの退去を命じ、土砂等の搬入、建物等の建築・設置及び占有移転を禁止し、かつ、執行官に対し、その禁止の公示を命じた(当庁平成四年(ヲ)第二四七六号事件、平成四年九月一六日決定)。
この決定は、相手方乙田ホーム株式会社にはいまだ送達されていないが、その他の相手方らに対しては、平成四年九月二四日または二五日に送達された。また執行官による公示は同月二一日に完了している(ただし、本件土地の占有者は相手方丁原建設株式会社及び相手方乙田ホームであると認定されたため、それ以外の相手方については占有移転禁止の公示はなされていない)。
ところがその後、本件建物について、相手方乙田ホームを所有者とする所有権保存登記がなされ、さらに抵当権設定登記もなされた(いずれも同月二四日受付)。また土砂や瓦礫の搬入も継続され、既に本件土地の五〇パーセント以上が土砂等に覆われた状態となっており、その撤去費用だけで、概算六八〇〇万円にも達している。
(以上の事実は、記録中の資料によって一応認められる。)
二 申立の内容等
申立人は、以上の事実を前提として、本件土地の価格がさらに著しく減少することを防止するため、民事執行法五五条一項に基づき、主文に記載のとおりの決定をするよう求めた。
三 申立を認めた理由
当裁判所は、本件申立を認めるべきものと判断した。その理由は次のとおりである。
第一項に述べたとおり、当裁判所は相手方らに対し、土砂の撤去及び本件建物の収去を命じた。けれども、これを債務名義(民事執行法二二条三号)として強制執行するためには、相手方らを審尋しなければならず(同法一七一条三項)、その現実の執行が行われるまでにはある程度の時間を要するから、その間に土砂や建物の所有権が他に譲渡されると、執行は著しく困難となってしまう。
そして、第一項に述べた事実関係(特に、建物の所有権保存登記がなされた事実)からすると、そのような執行妨害が行われる可能性が高い。
このように、執行妨害を目的として土砂や建物の所有権を譲り受けた第三者が出現した場合、その第三者を相手方として売却のための保全処分を発令することは、本件土地の価値を維持するために必要なことである。しかし、そのような保全処分を発令することができるか否かを判断するにあたって、その第三者が上記の撤去命令・収去命令の存在を知っていたか否かは、きわめて重要な意味を有するから、これを公示しておく法的な必要性がある。そこで、その公示を命じることとする。
(裁判官 村上正敏)
<以下省略>